レンタルビデオ屋ピープルはその特異な外見と豊富な在庫によって
様々な表現者に愛されていた。
現在も写真家として活躍中のO君は、中学生ぐらいから店によく通ってくれた。
20歳ぐらいの時「なんかの賞をとった」と、うれしそうにしてた。
写真の仕事のことはよくわからないのだが、
なかなか仕事が入らないと嘆いていた。まだまだ20歳そこそこなのに。
そのうち、音楽関係の写真仕事をするようになり、
「ピープルで撮りたい」と、言ってくることもあった。
映画やビデオの撮影がしたいという依頼がきても、
大手レンタルビデオ屋というのはほとんど断るようで、
よくピープルにそういうハナシが舞い込んだ。
でも、あの狭い店を下見に来ると、たいていむこうから
断ってきた。
まあ、何回かはホントに撮影したことはあるが、
スタッフ4人も入って機材も入ると、いっぱいいっぱい。
オマケに撮影は営業時間外ということで、
僕がめったに起きない午前中ということが多く、
当然僕も不機嫌になり、楽しい思い出にはならなかった。
で、O君の件。
まあ、何回もO君が持ってきた撮影のハナシがあっては潰れ、
ハナシがあっては潰れた。
その間にも時々、個人的にピープルの写真もとってくれた。
まあ、店の写真というより、
「僕が近所のそばやで注文したカレーライスを、道で食べてる」
てな、よく分からない写真だけど。
あの写真まだあるのかな~。
で、O君の仕事の写真オハナシが一回だけ実現したことがある。
ミュージシャンのアーティスト写真。
コンサートやライブハウス、雑誌の紹介欄につかうもの。
で、撮影当日。
アーチティストがこなくて
かわりに虎が来た!
本物の虎!
まあ、剥製なんだが・・・
剥製だからカラダが硬い。
そして虎だからデカイ!
あのピープルの狭い階段に入らない!
ようやく入ったと思ったら、今度は狭い入り口を通らない!
なんとかかんとか通して、
やっとアーティストもやってきた!
それも、あろうことかビッグバンド!
8人組ぐらい!
いっぱいいっぱい!!
テンヤワンヤの撮影であったが、
あまりのバカバカしさに、僕はずーっと爆笑してた。
O君はその後、よそに引っ越していったが、時々店に来てくれた。
なぜか、昔ピープルによく来てくれた演劇関係者と
しょっちゅう一緒に仕事しているらしく、「世の中は狭いなあ」と僕は感じていた。
彼はまだまだ、活躍中!
ピープルがまだあった頃、
僕が仕事してるときに
窓から外を見ると、ピープルの写真を勝手にとっている人がよくいた。
それを見ながら、そんな昔話を
ぼんやりと思い返していたのだった。